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地球上の様々な生き物の中で、人間は二足歩行を獲得するという珍しい進化を遂げました。縦に長い身長を二足のわずかな面積のみで支え、歩いたり、走ったり、時には片足立ちになったりできる能力を備えています。これを実現するためには実に様々な器官が関わり、複雑な制御を行っています。したがって二足歩行は、ケガや病気、年齢を重ねることによりその機能が失われやすいといったデメリットを抱えた移動方法とも言えます。
「1年間で一度でも転倒した人」を調査すると65歳以上では約10%と10人に1人、85歳以上の高齢者に限定すると25%と実に約4人に1人の方が転倒されており、年齢を重ねるごとに発生率が高くなることがわかります。
65歳以上の方で転倒して怪我を負う確率は約60%で、その中で骨折に至るケースは転倒者全体の12%程度いらっしゃるようです。「何らかの介護が必要になった」方の原因を調べると、全体の12.5%が「転倒・骨折」によるものでした。
人間は年齢を重ねるごとに転倒回数が増え、転倒回数が多いほどケガや骨折に至る確率が高まり、それにより介護が必要な状態となることが調査の結果からわかります。特に複数回転倒される方は何かしらの対策を考えていくことが重要ですが、それには歩行補助具の活用が一役買ってくれます。
その他に、「怪我などが原因で歩けなくなった場合」にも歩行補助具が有効です。怪我が治るまで無理に不安定な状態で歩いていたり、じっと動かず寝たきりや座ったきりで過ごしていたりするよりも、歩行補助具を活用して患部をかばいつつ、安全性を確保した状態で毎日しっかりと動いて過ごしているほうが怪我の治り具合やその後の状態が格段に良くなります。
歩行補助具は歩く時の支えになってくれる道具で、手を介して身体を支えることで安定性を高め、さらに体重を分散することで痛い部位や弱くなった部分の機能を補うことで安心して歩くことを助けてくれる道具です。皆さんもよくご存じの松葉杖や一本杖も歩行補助具の一つです。
歩行補助具は使用される方のお身体の機能に合わせて様々なタイプが存在します。
一般的に知られている歩行補助具の一つで、支える力は体重の約1/6程度です。杖が無くても歩けるくらいの方に適しています。持ち手の形状、杖先ゴムの形状、折り畳み式など様々なタイプがあります。
一本杖よりも支える力が強い道具で、一本杖では支える力が足りないという方に適合します。足が広いものや狭いものがあり、杖から手を放しても立っていてくれます。床が平面な場所では機能を発揮しますが、屋外ではガタついてしまい、かえって不安定になってしまいます。
2本使用で支える力が強い道具で、使用にはかなりの筋力が必要です。
腕や手の筋力が弱く松葉杖が使えない方に有効な道具で、支える力は比較的強いです。
四つの足の広い面積で体重を支えるため、杖よりも圧倒的に安定性が高い道具です。杖がうまく使えない方で、補助なしでは明らかに歩くのが大変な方にお勧めです。下の画像は四つの足が固定式ですが、車輪タイプのものもあります。種類によって大きさ、材質、重量などに違いがあり、大体は折り畳みが可能で保管場所が比較的取りやすく持ち運びも便利です。
車輪が大きく屋外向きで、外を歩くときに杖では心配という方にお勧めです。椅子機能やバスケットが付属しているものが多く、途中休憩や荷物の運搬に便利です。折り畳み可能なものが多いですが、ピックアップ歩行器に比べると保管スペースが必要で重量も重い為、運搬もやや大変です。
四輪の大きな面積で支えるため、支える力は最も強い歩行補助具になります。手を放して歩くことが出来ない方や、ほかの歩行器では歩けない方などにお勧めです。重量があるため持ち運びはもちろん段差の昇降もかなり難しく、平面な場所での使用に限定されます。折り畳みできるものも存在しますが、保管スペースはかなり必要になります。
【歩行補助具の使用について】
要介護認定を受けている方は、介護保険でレンタルすることも可能です(一本杖は購入のみ)。自己負担金が1割の場合は、レンタルだと月額数百円程度の料金で、修理及び交換が追加料金なく可能です。また、元気になって不必要になったら返却もできるため、大変便利なサービスとなっています。是非、ご担当のケアマネージャーにご相談ください。なお、要介護認定を受けていない方は購入となります。
役に立つ歩行補助具ですが、「そんなの使うのはみっともない」と忌み嫌われてしまうところがあります。しかし、無理をして転んで痛い思いした挙句、それが原因でトイレに行けなくなってしまい介護状態を悪化させてしまうこともあります。歩けないからとじっとして過ごしているよりも、歩行補助具を使用して沢山動かれていたほうが、元気を取り戻しやすいものです。
そのため、あまり気が進まない方でも、ぜひ歩行補助具を一度使ってみることをお勧めします。「こんなに歩きやすいなら使ってみよう」とお気持ちが変わられる方もいらっしゃるかと思います。そして、歩けるようになったら歩行補助具を卒業すればよいのです。
【歩行補助具の選択について】
どの歩行補助具が良いのかは、ご本人様やご家族様だけではなかなか判断が難しく、買っても使いづらくて次から次へと買い換えて杖が何本もあるご家庭も少なくないと思います。そのような場合は、ぜひ理学療法士にご相談ください。理学療法士はその方のお体の状態を把握した上で、道具のタイプ、材質、細かな機能を選択して提案し、使用方法を指導することができます。
なお、当院には12名の理学療法士が在籍しております。当院の医師に相談していただければ、リハビリテーション科の理学療法士の全面的にサポート致します。お一人で悩まず、お気軽に当院までご相談いただければと思います。
参考サイト
内閣府:平成17年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査
厚生労働省:2019年度 国民生活基礎調査
横山医院 理学療法士 横山 武生