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高齢者の抱える問題は加齢そのものによる問題ばかりではなく、疾患による問題や後遺症など、さまざまな問題が混在しています。身体機能低下も、その原因は単に筋力や関節の動きのみの問題でなく、疾患や廃用(安静状態が長期に続くことによる心身の機能低下)、生活環境や人的環境などさまざまな要因が関係しています。
今回は、高齢者の身体機能低下についてと、それを予防するための体操をお伝えします。
加齢に伴い、筋肉の萎縮が生じます。特に大腿四頭筋(ももの前の筋肉)と腹部の筋肉の萎縮が著明であり、大腿四頭筋に関しては80歳の平均値が20歳の平均値より45%低いとされており、このことは下肢筋力強化の重要性を裏付けるものとなっています。また、脊柱(背骨)では頸椎や胸椎に比べて腰椎の支持機構で筋機能の低下が著明となっており、高齢者の持つ腰の問題や脊柱の変形に影響を与えています。
①大腿四頭筋の運動
・まず椅子に深く腰掛けましょう。背もたれに寄りかかっても大丈夫です。
・左右どちらかの膝をゆっくりと伸ばします。その後ゆっくりと下ろしていきます。
10回を目安に左右行いましょう。余裕があれば伸ばし切ったところで5秒ほど止めてから降ろします。
※ももは椅子から持ち上がらないようにして、膝のお皿の上あたりにしっかりと力が入るようにしましょう。
②腹筋の運動
・椅子に浅く、骨盤をしっかり起こして座ります。まっすぐ座ることが大変な場合は座面の横に手をついて支えてもいいです
・身体が後ろに傾かないように気を付けながら両方の踵を上げていきます(つま先は床につけたまま)。ももの付け根と下腹部が近づいていくイメージで行います。
※まっすぐ座れているかどうか、鏡を見たりご家族の方に確認してもらいましょう。下腹部に力が入っているか触って確かめてみましょう
加齢に伴い萎縮するのは筋肉だけではありません。骨粗しょう症などにより、骨も萎縮して脆くなるのは周知のことです。加齢により椎体(背骨を構成する骨)全体の強度は性別に関係なく70~80%低下するとされています。これらの変化は胸椎や腰椎で著明にみられ、圧迫骨折や脊柱の変形などの要因となり、高齢者の姿勢に大きな影響を与えます。骨密度の低下に対しては、必要に応じて内服や注射などの治療を行いましょう。日光に当たることも重要なので、午前中のウォーキングも効果的です。
足底感覚の低下も問題になることが少なくありません。足底感覚の低下がバランス能力に影響を与えて、神経伝達速度の低下や柔軟性の低下、筋力の低下とともに転倒リスクとなり得ます。また、すべての動きの基本となる正中感覚(頭と背骨が身体の中心に安定すること)が大切ですが、高齢者の場合は身体からの情報を十分にキャッチできなくなるため、自分の中心がどこにあるのかわからなくなっている場合が多くなっています。
①足底感覚の促通
・椅子などに腰掛け裸足になり、足の下にゴムボールなどを置きます。
・ボールをまっすぐ踏んだり、前後左右に転がしたりして足底の感覚器を刺激します。
(足の下にタオルを敷いて、たぐり寄せたり掴み上げるようにしたりして足裏の筋肉を刺激するのも効果的です)
②姿勢を正中に保つ練習
横から見たときに「耳たぶ」「肩」「股関節の横の骨が出っ張っているところ」「膝の前部分」「外くるぶしの前方」が一直線になると、きれいな姿勢になります。
・壁に背中を付けて立ちます。左右の足に均等に体重が乗るようにしてください。
・踵はなるべく壁に近づけて立ち、腰と壁の間は手の平一枚分のスペースになるようにします。
・胸を開いて肩甲骨を壁につけます。
・顎を引いた状態で後頭部が壁につくようにします。
高齢者の身体機能低下に対する運動をいくつかご紹介しました。痛みが出てしまったり、筋力や体力が低下してしまったりしてから運動をするのはとても大変です。「まだ大丈夫」という段階から運動を習慣づけていくことが大切です。ただし、お身体に痛みがある場合は、悪化させてしまうリスクもあるので、必ず医師に確認してから行うようにしましょう。
横山医院 理学療法士 横山 麻希