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1989年から始まった8020運動(“80歳になっても20本以上自分の歯を保とう”という運動)の達成者が5割を越えた今、歯の本数に加え口の機能を維持する「オーラルフレイル対策」が注目されています。オーラルフレイルは「オーラル(口腔)」と「フレイル(心と体の働きが弱くなってきた状態)」から成る造語として日本で考案され、直訳すると「口腔の虚弱」となります。
日本の地域在住高齢者2,011名を対象に行った研究により、オーラルフレイルが要介護状態や死亡の発生との関連だけでなく、フレイル自体の発生やサルコペニア(筋肉量が減少していく現象)の発生に関連していることが明らかにされました。この結果は、フレイルや身体能力の低下に先立ってオーラルフレイルが生じていることを示唆しています。
フレイル、サルコペニア、要介護状態へと進行していく中で、口腔機能の低下が影響している可能性が示唆され、フレイル対策事業の普及とともに広く注目されることになりました。オーラルフレイルの概念図は以下のとおりです。
オーラルフレイルは以下の第1から第4の4つのレベルから構成されます。
高齢期になると社会的な環境も変化し、多くの場合その個人の社会的役割も変化することになります。生活範囲の狭まりや精神面の不安定さから、「口腔機能管理に対する自己関心度(口腔リテラシー)の低下」を経て、歯周病や残存歯数の低下のリスクが高まります。「仕事場」での役割から新たに「地域」等での役割を求められ、時として孤立してしまうケースもあるでしょう。こういったいわゆる「社会的フレイル」により、知らず知らずのうちに自己の健康への興味が薄れていく段階と言えます。
日常生活におけるささいな口の機能低下(滑舌低下、食べこぼしや僅かのむせなど)が現れる段階です。例えば、「最近固いものが食べにくい 歳だから柔らかいものにしよう 消化にも良いかもしれないし」などという考えから始まった食事選びが習慣化し、さらに老化による機能低下も相まって口の機能低下が進む段階です。その機能低下は微細であることから、自覚することなく潜在的に進むことが多い状況にあります。特に今の時代は柔らかい食品が多いため、進行して初めて「噛めない食品が増えた」などと自覚することも少なくありません。
口腔機能の低下が顕在化(咬合力の低下や舌運動の低下)し、サルコぺニアやロコモティブシンドローム、栄養障害へ陥る段階です。このレベルの対象者は口腔機能低下症の診断がつく場合もあることから、対応は歯科診療所で行われることとなります。
摂食嚥下機能低下や咀嚼機能不全から、要介護状態、 運動・栄養障害に至る段階で、「摂食嚥下機能障害」として診断がつく段階です。このレベルへの対応は、摂食嚥下リハビリテーションとしてすでに標準化された評価及び対応が整備されています。したがってこのレベルの対象者へは、専門的な知識を有した医師、歯科医師などが対応します。
以上のように、オーラルフレイルはレベルの移行に伴いフレイル、特に身体的フレイルに対する影響度が増大する概念となっています。
自分は大丈夫と思っても、自粛生活が続き、人との接触とともに会話やカラオケなどの機会が減り、長いマスク生活による口呼吸等の影響によってオーラルフレイルが引き起こされている可能性があります。以下のチェック表でオーラルフレイルのリスクをチェックしてみましょう。
オーラルフレイルは身体機能低下の前段階となり、可逆的であることが大きな特徴の一つです。早めに気づき適切な対応をすることで健康に近づくことができます。日々のケアとして食後にうがいをする、就寝前の歯磨きをしっかり行うなどして口腔内を清潔に保つよう心がけましょう。歯周病やむし歯などで歯を失った際に適切な処置を受けることはもちろん、定期的に歯や口の健康状態をかかりつけの歯科医師に診てもらうことが非常に重要です。
また、人とのつながりや生活の広がり、共食といった社会性を維持することも重要です。地域で開催される介護予防事業など、口腔機能向上のための教室やセミナーを活用することも効果的でしょう。オーラルフレイル予防にはお口の体操も効果的です。最後に横浜市のHPに紹介されている口腔体操を紹介します。お食事前に行うことで誤嚥の予防にもなりますので、ぜひ行ってみてください。
横山医院 理学療法士 横山 麻希