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腕神経叢損傷は、主にバイクでの交通事故や分娩時などの外傷により腕神経叢が損傷され、腕や手の機能に障害が生じる重篤な神経麻痺です。第5頚神経根から第1胸神経根までの末梢神経の損傷によりさまざまな症状が出現します。側頚部から腕に向かって伸びている腕神経叢は、最終的には「正中神経」「尺骨神経」「橈骨神経」などの神経になり、手先の細かい動きなど日常生活動作を行う上でとても大切な働きをしています。
バイクでの交通事故などでアクセルを握ったまま強い衝撃を受ける、あるいは分娩時に神経が牽引されることなどが原因で生じます。また、放射線照射が原因で生じることもあります。
損傷部位の腫れや痛み、損傷のレベルに応じた運動麻痺や感覚障害が生じます。例えば、肩が挙がらなかったり肘が曲がらなかったりなどの症状がみられます。また、発汗異常や顔面の紅潮などの自律神経症状がみられることもあります。
腕神経叢が存在する側頚部から鎖骨上部にかけての腫れや痛みがあるかどうかをみます。また、運動麻痺や感覚麻痺の部位や程度から、どの神経が損傷されているかを診断します。損傷のレベルや範囲などから「高位型」「下位型」「全型」に分けられます。神経の状態の把握にはCT検査やMRI検査が行われ、神経損傷のレベルの判断には筋電図や知覚神経誘発電位などの検査が行われます。
脊髄と神経根の連結が保たれている節後損傷の場合には、自然回復する可能性もあるため、3~4か月経過観察しながら麻痺の回復を待ちます。また、必要に応じて頚椎カラーを装着して頚部の固定を行います。経過観察の間、対症療法として鎮痛剤の服用や神経ブロック注射、残存している筋肉の機能を回復させるための運動療法などを行います。
脊髄と神経根の連結が断たれている節前損傷の場合には、自然回復の可能性が低いため、手術療法が選択されます。受傷後6ヵ月以内では、可能であれば神経を修復させることで運動機能の回復を図ります。受傷後6ヵ月以降では、筋肉移植や筋腱移行術などが行われます。「全型」に対する手術としては「Double free muscle transfer法」が、「高位型」に対しては「Saha法」による肩機能再建術や「Oberlin法」による肘屈曲再建術などが行われます。
神経と神経根の連結が保たれている節後損傷の場合、一過性の麻痺であれば数週間ないし6ヵ月までにすべての筋肉に収縮がみられれば、保存療法でも日常生活に支障がないところまで回復が見込めます。しかし、神経の断裂があると自然回復は見込めないため、手術により生活機能の回復を図ることになります。損傷の程度や範囲によって、手術後の経過は異なってきます。